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「黙殺」の英訳と日本の運命

1945年7月末、日本に無条件降伏を迫るポツダム宣言についての総理大臣のひと言が、連合国に「拒絶」と受け取られ、アメリカは原爆投下を決めた―終戦にまつわるエピソードとして、聞いたことがあるという人もいるかと思う。しかし、これは本当に史実だったのだろうか。

戦争終結をめざす外交努力が舞台裏で続く中、鈴木貫太郎首相は、軍部の強硬派を慮って、ポツダム宣言を「黙殺する」と、どのようにも取れる言葉を使ってコメントした。これが ignore または reject と翻訳され、トルーマン大統領は日本が降伏する意思なしと判断、原爆の使用を決断した―というのが、この挿話である。

先日紹介した、広島への原爆投下についてのノンフィクション Shockwave でも、これについての記述があった。このうち英語学習の上でも参考になりそうな部分を、ちょっと引用してみる(「腹芸」の説明がちょっと面白いが…)。

And then he (=鈴木貫太郎) added a curious phrase: "The government will mokusatsu it."

Mokusatsu: the word was dangerously ambiguous. Mokusatsu spanned a range of possible interpretations. It could mean to ignore. It could mean to withhold comment. It could also mean to kill with silent contempt. (中略)

The Japanese had a term for this sort of ambiguity. It was called haragei, literally "to talk out of both sides of your mouths." Suzuki was a past master of the art. (中略)

But haragei meant nothing to the Allies, who were waiting for the Japanese response to their ultimatum. There were no tongue-twisting double meanings in mokusatsu for Truman and Churchill. There was only rejection. The Japanese prime minister had turned them down. In a single ambiguous phrase Suzuki had sealed the fate of his nation.

この記述も、「鈴木貫太郎首相がポツダム宣言を”黙殺”すると言い、この発言が拒絶と受け取られ、これによってアメリカが原爆投下を決断した」という「通説」に基づいている、といえそうだ。

しかし、本当に鈴木首相は「黙殺する」と発言し、そして本当にそれが原爆投下の決断に影響したのだろうか。

この「”黙殺”神話」の真相を検証しているのが、今回紹介するノンフィクションである。鈴木首相が実際には何と言い、それが何と訳され、それがどうアメリカで受け取られたのか、とからめて、原爆投下の決定から終戦にいたる過程とアメリカおよび日本の動きを、裏話的なものも織り交ぜて、上下2巻を費やして丹念に追っている。

読むには多少根気が要るかもしれないが、史実をありのままに伝えることがいかに難しいか、歴史の「通説」「定説」とされるものがいかに危ういものでありうるか、を考えさせてくれる力作だ。もちろん、今のこの時期に読むのにふさわしい作品である。


黙殺―ポツダム宣言の真実と日本の運命〈上〉 (NHKブックス)黙殺―ポツダム宣言の真実と日本の運命〈上〉 (NHKブックス)
(2000/07)
仲 晃

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「光陰矢の如し」を意味するラテン語由来の言葉が tempus fugit です。
学習・趣味・仕事で英語に触れていつの間にか三十数年。英検1級とTOEIC900点超を取得した今も上級者への道は遠いですが、これまで出会った印象深い単語や表現について書いていきます。

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