「エチュード」(三浦友理枝)
ロマン派の情感豊かな作品や演奏を耳にすると、何だか聴いている自分の方が気恥ずかしくなってしまう歳になって久しい。そうでなくても、ショパンの作品は以前からそれほど好みではなかった。が、例外的に気に入っている曲が「練習曲集 op.10」の中にある。
この曲集では、「別れの曲」という日本独自のタイトルがついている3曲目の op.10-3 が有名だ。誰でも一度は耳にしたことがあるはずの美しい旋律を持つが、私はちょっと苦手だ。私が好きなのは、冒頭の op.10-1 で、初めて聴いた時すぐに気に入った。天駆けるように疾走する曲で、ロマン的ではあるが、硬質でべたべたした感じは受けない。
この「練習曲集」は、マオリツィオ・ポリーニの録音が名演といわれている。1970年代初めにLPで初めて出たとき、日本の会社は、レコードのタスキ帯に「これ以上何をお望みですか?」という宣伝文句をつけたそうだ。クラシック音楽では例外的な名キャッチコピーとして、今でも語り継がれている。
私はこのコピーをリアルタイムで知っているわけではないが、今もCDで手に入るこの録音を聴くと、確かにそれがうなずけるような快演だ。ただ、これも歳のせいか、ダイナミックなうえにメカニカルとも思えるこの手の演奏には、少し疲れるものを感じることがある。
三浦友理枝の演奏は、どの曲もポリーニよりもう少しテンポがゆったり目で、音もやや柔らかいが、粒立ちは十分良い。好みの第1曲は、閃光がひたすらきらめくようなポリーニの演奏とは、また違ったこの作品の顔を見ることができたように感じた。第3番「別れの曲」、第5番「黒鍵」、また第12番「革命」といった有名な作品もなかなか楽しめた。
彼女に対する評価など詳しいことは知らないが、近年の「J-クラシックの若手美人アーティスト」ブームの一人として終わらないよう、研鑽と経験を積んでいってほしいものだと思った。