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「サロメ」の昭和初期の翻訳

ポオ詩集 サロメ―現代日本の翻訳 (講談社文芸文庫)ポオ詩集 サロメ―現代日本の翻訳 (講談社文芸文庫)
(1995/02)
ポオ、ワイルド 他

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イスラム教徒の反発を招きかねない場面があるとして、ベルリンの歌劇場が新演出によるオペラ「イドメネオ」の上演を一時中止しようとしたことが報じられた。モーツァルトのこの作品は、先日取り上げた deus ex machina の例といえるだろう。

台本を書いたのはモーツァルトではないが、最後の最後になって、突如として神のご宣託がとどろいてすべてが円満解決するという筋書きで、ビデオで初めて観た時は何だか力が抜けたものだ。

今回の演出には、イスラム教の預言者ムハンマドの切られた首が出てくるそうで、警察が「イスラム過激派を刺激するおそれがある」と警告したことを受けて、いったん上演中止を決めた。これに対して、表現の自由を自己規制するものだという批判の声も出て、歌劇場は数日前、中止を撤回することにしたという。

ヨーロッパでは、先のムハンマドの風刺漫画騒ぎのあとも、ローマ法王やイギリスのストロー前外相の発言など、イスラム圏のいくつかの国を訪れたことのある私としては、気になる動きが続いている。異質なものに対する非寛容的な考え、「文明の衝突」的志向が広がっているのでなければいいが、と考えてしまった。

さて、ベルリンで物議をかもした「首切り」で連想したのは、新約聖書に出てくる Salome の挿話である。宴席で見事な舞を披露した少女サロメが褒美として王に要求したのは、なんと洗礼者ヨハネ John the Baptist の斬首。聖書では単に「ヘロディアの娘」となっているが、他の文献に「サロメ」として出てくるという。

芸術家を刺激するテーマとみえて、いろいろな作品が生まれ、今や聖書の単純な描写を離れて、サロメは少女と妖女、無垢と官能という対照的な要素をあわせもった存在となっているようだ。

絵画では、ギュスターヴ・モロー Gustave Moreau による幻想的な作品が知られているが、文学で有名なのは、やはり オスカー・ワイルド Oscar Wilde の戯曲だろう。原著につけられたオーブリー・ビアズレー Aubrey Beardsley の挿絵は、モローと並ぶサロメの絵画作品として知られるし、これに基づいたオペラも作曲された。

ワイルドはイギリス人だが、この作品をフランス語で書いたので、英書は翻訳である。私は日本語訳をいくつか読んだが、最も印象的だったのは、昭和初期に活動した詩人、日夏耿之介の訳である。

この翻訳は、漢語を多用しつつ、それを大和言葉で読ませるようにしている。例えば、「面紗(ヴェール)」「宗旨(おしえ)」「お頭髪(ぐし)」「能力(ちから)」「饗宴(うたげ)」「談話(はなし)」「そちの脣(くち)に接吻(くちづ)けをした」など。他の訳が「あの女を殺せ」などとしている台詞は、「その女子(おなご)を屠(ころ)せい」となっている。最初はとまどうし、技巧に走りすぎて不自然と取る人もいるだろうが、読み進めるうちに、独特の味わいを感じるようになった。

こうした表記は、単に昭和初期に翻訳されたからというわけでもないようだ。今手に入る文庫本の解説は、この詩人の作品の特徴として、「象形文字の魅力を意識的に活用」「聴覚的効果、音楽性」としている。

また、この「サロメ」の翻訳で狙ったものとして、「言葉の暗示力、象徴性、幻想喚起力、律動、聴覚的効果などを縦横に駆使した…超現実性」と説明されている。独特の味わいは、意図された漢字の効果と読みのリズムなどから醸し出されているというわけである。

日夏耿之介は注の中で、「撒羅米(サロメ)は orientalism の文学也。orientalism は欧人三百年の夢にして、極東の我等は、欧人の夢裡に入りたるこの近東的迷景を味わいて、二重の exoticism を感受す。」と書いているが、まさにその考えに沿った、独特の雰囲気を持たせた翻訳となっている。

現代の日本語では、ことさらに難しい漢字の使用は避けたほうがいいだろうと私は思っている。しかしその一方で、難しいからと漢字を教えなくなり、その使用に枠をはめていくと、漢字の持つ効果や面白さに気づかないようになり、古い作品も読めなくなっていくのでは、と危惧してしまう。

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「光陰矢の如し」を意味するラテン語由来の言葉が tempus fugit です。
学習・趣味・仕事で英語に触れていつの間にか三十数年。英検1級とTOEIC900点超を取得した今も上級者への道は遠いですが、これまで出会った印象深い単語や表現について書いていきます。

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